ECプラットフォームの導入を検討する際、比較の軸はたいてい「デザインの自由度」「決済の種類」「アプリの充実度」にあります。
けれど、自社やグループ全体で複数のサイトやチャネルをご運用されている場合、基盤に求めるものは局面ごとに変わります。
・あるサイトでは、店そのものが要る
・別のチャネルでは、受注を自社の基幹システムへ受け渡すハブだけが必要
・また別のサイトでは、流入がどこから来たのかを、あとから分析したい
1つのプラットフォームでこれを全部まかなおうとすると、たいてい一番重い要件に引っ張られます。ハブが欲しいだけの場所にも、店を丸ごと作り込むことになる。
創業50年、コンタクトレンズ事業に携わって約25年になる株式会社パレンテはここを分けて考えている企業です。同社の3つのストアはいずれもSHOPLINEを導入していますが、それぞれまったく違う役割を担っています。
本記事では、代表取締役の吉田 忠史氏と、メディア企画部のSHOPLINE運用担当者にお話を伺いました。
差がつかない市場で、どう差をつくってきたか
吉田氏が参画した16年前、コンタクトレンズのECはまだ黎明期でした。当時のパレンテは実店舗3店舗のローカルチェーン。そこから同社は、人・物・金のリソースをあえて分散させず、一気にECへ集中させます。
そのとき掲げた「早く・安く・きれいに届ける」という3原則は、いまも同社の背骨です。
コンタクトレンズは高度管理医療機器で、品質はメーカーが保証しています。だから同社は、自社の強みを語る場面で、まず前提を認めるところから始めます。
「Aメーカーさんから仕入れているものが、小売店のB社さんと当社と、商品に差があるかと言われれば、正直ないと思っています」(吉田氏)
株式会社パレンテ 代表取締役 吉田 忠史 氏
そのうえでの差別化が、厚生労働省の承認を持つレンズに絞った品揃えと、全国人口カバー率90%超・当日出荷比率約94%というスピードです。さらに同社は、この前提から抜け出す手も打っています。自社ブランド「WAVE」です。10周年を機に、視力補正だけでなく、同社のアイデンティティである「視覚」そのものを扱うブランドへと定義を書き換えました。
扱うものが視力補正から視覚体験へ広がれば、届け方も1つだけでは足りなくなります。
10周年を機にリリースされた自社ブランド「WAVE」モールごとの仕様に振り回された経験
同社は長く、自社の独自ドメインのサイトとモール出店の両方を持ってきました。楽天、Amazon、Yahoo!、Qoo10 をはじめ、複数のモールに展開しています。そこで生まれたのが、データの問題でした。
「モールさんのデータって、Yahoo!さんの仕様できたりとか、楽天さんの仕様できたりとか、Amazonさんの仕様できて、本当にはちゃめちゃなデータマートで来るので、これがやはり統一できないねっていう」(吉田氏)
データは取れます。ただチャネルごとに形式がバラバラで、仕様変更のたびに自社エンジニアが対応に追われる。この負担は、売上ではなくチャネル数に比例して増えます。
こうした経験を重ねた企業が基盤に求めるものは、「もう1つ店を作れること」ではありません。必要な形で、必要なところだけをつなげられることです。
3つのストア、3つの活用方法
パレンテがSHOPLINE上に持っているストアは、性質がまったく違います。
① つなぐ — チャネルの受注を、基幹システムへ
TikTok Shop は、注文も在庫もプラットフォーム側に持たれる仕組みです。そのままでは、自社の基幹システムから受注が見えません。
そこで同社は、SHOPLINEの販売チャネル一元管理(マルチチャネルコネクト)を使い、TikTok Shop の受注をSHOPLINEへ同期したうえで、自社の基幹システムへ渡しています。
この場合、SHOPLINEのストアの役割は商材を販売する「場所」ではなく、ハブです。ECプラットフォームを、店を作るためではなく、チャネルと自社システムをつなぐために使う。この使い方が選べること自体が、プラットフォームの選定における自由度です。
② 運ぶ — 顧客とポイントを引き継いで、販売を続ける
2つ目は、グループが運営するカラーコンタクトレンズ専門サイトEyetteです。
Eyetteオフィシャルサイト
このサイトは、他社カートからの移行を経ています。そしてECの移行で最も神経を使うのは、商品データではなく、顧客の情報です。
会員アカウント、購入履歴、そしてお客様が貯めてきたポイント。これらは事業者にとってはデータですが、お客様にとっては「自分がこの店で積み上げてきたもの」です。移行を理由にそれが消えれば、システムが新しくなった瞬間に、お客様との関係が後退します。
同社は既存サイトの顧客情報を新しい環境へ運び入れ、お客様が保有していたポイントも同額で引き継いでいます。
もちろん旧サイトから商品情報さえ移せば新サイト自体は問題なく開けますが、お客様のポイント残高まで運ぶと決めた瞬間に、その移行は「システムの入れ替え」ではなく「関係の引き継ぎ」になります。
③ たどる — 動画から来た注文を、あとから見分ける
3つ目は、YouTubeチャネルと連動したサイト・コンタクト社長のレンズワールドです。YouTube Shopping を使い、動画を見た人を自社ECへ送客しています。
ここには、コンテンツで集客している事業者なら誰もがぶつかる問題があります。YouTube Shopping は YouTube 上で決済が完結せず、自社ECへ誘導する仕組みです。つまり注文としては、検索から来た人も、動画から来た人も、同じ「オンラインストアの注文」になります。
そのままでは、動画が効いているのかどうかを注文で確かめられません。
同社はここで、流入時のUTMパラメータを注文データ側で確認できる仕組みを使っています。動画からの注文と、それ以外の注文を、あとから見分けられる。
コンテンツの効果を「反応が良かった気がする」ではなく、注文で測れる状態にしておく。3つ目のストアが担っているのは、この計測です。
数あるプラットフォームの中でSHOPLINEを選んだ理由
3通りの使い分けができる前提には、プラットフォーム側の性格があります。
パレンテは国内外の複数のカートシステムを実際に使ってきましたが、そこで見えてきたのは機能の有無とは別の課題でした。広告の打ち手にも、デザインにも、自由度が足りない——というものです。
「使える機能」ではなく「触れる範囲」で選ぶ
機能一覧を並べれば、どのカートにも「広告連携に対応」「デザインカスタマイズ可能」と書いてあります。
しかし、実際の運用で効いてくるのは、その機能にどこまで手を入れられるかです。ここが窮屈だと、施策のアイデアが出るたびに「それはこのカートではできない」で止まります。機能があることと、思ったとおりに使えることは、別の話です。
決め手は「日本に担当者がつくこと」だった
パレンテはその後、海外発のプラットフォームも含めて比較しています。そこで最終的な判断を分けたのは、日本に担当者がつくこと、そして日本語でのコミュニケーションが成立することでした。
海外発のプラットフォームを日本で使う場合、サポートの言語と時差が、そのまま意思決定の速度になります。仕様の確認も、トラブル時の切り分けも、外国語のドキュメントを読み解くところから始まるのと、日本語で担当者に聞けるのとでは、解決までの時間が変わります。
そして吉田氏が挙げたのは、導入時点だけの話ではありませんでした。
「ただサービスを利用するだけじゃなく、サービスを利用後の導入から、振り返り、その辺のアフターメンテナンス含めて、最終的に総合的にSHOPLINEさんにさせていただいた」(吉田氏)
導入、運用、振り返り、改善。この一連のサイクルに同じ相手が伴走し続けるかどうか。カートの選定は「立ち上げの相手選び」だと思われがちですが、実際にはそのあと数年間の運用パートナー選びです。
2025年には、新宿にOMO型店舗「レンズアップル新宿」を新たにオープンお客様とのつながりを出荷完了で終わらせない
多くの事業者は、ECプラットフォームを「注文を受け取る場所」にすぎないと認識しています。しかし吉田氏の視点は、そこで終わりません。
「裏側で我々が物を販売して、お客様が購入して、届けるまでって、実はその先があるじゃないですか」(吉田氏)
同社とSHOPLINEの間では、データが両方向に流れています。
受け取る側では、SHOPLINE上の受注を自社の基幹システムへ取り込んでいます。ここで大事なのは、取り込む中身を自分たちで決めているという点です。たとえば決済方法まで基幹システムへ持ち込み、後払い系の注文は出荷のタイミングを分ける——といった判断に使う。注文を「受け取る」だけなら要らない情報が、運用を回すためには必要になります。なお同社は、この取り込みを最初からシステム連携で組んだわけではありません。管理画面からの書き出しで運用を始め、そのうえで自動連携へ移しています。
返す側では、出荷が完了すると、その結果と追跡情報が基幹システムからSHOPLINEへ書き戻されます。書き戻されたステータスはチャネル側にも反映されるため、出荷の連絡をチャネルごとに別々の手順で行う必要がありません。
そしてこの線は、出荷でも終わりません。出荷完了のサンクスメールが飛び、1週間後、もう一度お客様に連絡します。
「1週間経ったら、もう一度そのお客様に対して、目に不具合がありませんかとか、聞く必要がある」(吉田氏)
コンタクトレンズは高度管理医療機器です。購入後に目の不調が出ていないかを確認することは、やれたら良いCRM施策ではなく、この商材を扱う事業者の責任範囲に含まれます。それを支えているのが、出荷という事実がそのまま次のアクションの引き金になっている状態です。
ECプラットフォームがデータの終着点なのか、通過点なのか。この違いが、顧客体験を設計できる範囲そのものを決めています。
数字で動く運用
日々の運用について、メディア企画部のSHOPLINE運用担当者が挙げたのは、データの粒度でした。注文データと行動データを、必要な項目単位で取り出せる。細かいマーケティング分析をするうえで、これが効いてくるといいます。
同社はCRMの本格活用にはこれから着手していく段階です。それでも、広告運用の現場ではすでにデータが意思決定を動かしています。
「今広告を回してたりとかもしますので、『こういったお客様の動きがあるから、じゃあこういう風にやってみよう』みたいなところは、実際数字を見て動いている」
感覚で回す運用と、根拠を持って回す運用の差は、データの粒度から生まれます。
まとめ
モールごとの仕様に振り回された経験から、パレンテが基盤に求めるものは「もう1つ店を作れること」ではなくなりました。必要な形で、必要なところだけをつなげられること。
この結果が、3つのストアの3通りの使い方です。チャネルの受注を基幹システムへつなぐ。顧客とポイントを運ぶ。動画から来た注文をたどる。そしてデータは受け取るだけでなく返され、出荷したあとも、線は切らずに1週間後のお客様へ続いていきます。
吉田氏は、買い場が独自ドメインからモールへ、モールからSNSチャネルへと移る流れを「階段」と表現します。そして新しいチャネルが来たとき、必要になるのはたいてい「もう1つ店を作ること」ではなく、そのチャネルの受注をいまの仕組みへつなげることです。TikTok Shop がそうだったように。
ECプラットフォームは、店を作るためだけの道具ではない。複数のサイトやチャネルを抱えている事業者にとって、この事例はひとつのヒントになるのではないでしょうか。
本記事でご紹介した内容については、インタビュー動画でも詳しくご覧いただけます。実際の取り組みの背景や考え方を、ぜひ動画でもご確認ください。