越境ECとは?日本企業の始め方・完全ガイド【2026年版】

越境ECとは?日本企業の始め方・完全ガイド【2026年版】

「海外で売りたい。でも現地法人の設立、人材採用、店舗の賃貸……そこまで考えると、今の体力ではとても無理」——そう感じて足を止めてしまう事業者は少なくない。その不安は決して的外れではない。しかし今、もっと身軽に海外へ出る方法がすでに存在する。「海外展開=大きな投資」は、もはや当たり前の前提ではなくなった。オンライン販売という形であれば、海外展開は「大きな投資」から始める必要はない。 日本から直接届ける越境EC、モール出店と自社ECの併用、そして現地に根を張ることを目指す場合——どんな出方であっても、まずはオンラインストアから始め、小規模・低コストで手応えを感じることができる。

本ガイドは、「越境ECとは何か」という基本の問いから、日本のブランドが実際につまずきやすい現実、自社が今どのフェーズにいるのか、何から始めるべきか、どんな商品が向いているのか、そしてどの市場でテストするのが賢明かまでをカバー。海外販売の全体像を一枚の地図として描き出した。「自社はまず何を、どこから、どれくらいの規模で売り出すべきか」が見えてくるはずだ。

越境ECとは?——海外の消費者に、国境を越えてオンラインで売ること

越境EC(クロスボーダーEC)とは、自国の事業者が、インターネットを通じて海外の消費者に商品を販売する仕組みだ。 実店舗や現地法人を持たなくても、オンラインのストアを通じて国境を越えて売れるのが、従来の貿易や海外出店との決定的な違いである。

この市場は今世界規模で急拡大している。全世界での越境EC(小売)市場規模は2024年に5,210億ドルに達し、2015年と比べおよそ5倍成長(JETRO、原データ:Euromonitor International)。「海外で売る」は、もはや一部の大企業だけの特権ではなく、規模を問わずどの事業者でも実際に打てる一手となった。

ここで興味深いのが、「日本では当たり前の商品が、特定の海外市場で爆発的に売れる」という現象が各地で起きていることだ。例えば、あるクロスボーダーECモール上で、日本製の音波振動歯ブラシへの注文の約9割がなんと、イスラエルからだったという(JETRO、2025年9月公表)。国内では単なる日用品の一つでも、海外の某市場では「ここでしか買えない日本品質」として、強い需要を掴んでいる。

では具体的に「どの国の消費者が、日本の事業者からどれだけ買っているのか」。経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」(2025年8月公表・対象年2024年)によると、越境ECを通じて日本の事業者から購入した金額は、中国の消費者が2兆6,372億円(前年比+8.5%)、米国の消費者が1兆5,978億円(前年比+8.0%)だった。対日越境ECでは中国が最大市場であり、成熟した大市場である米国がそれに続く——これが全体の構図だ。いずれも前年から伸びており、日本商品への需要そのものが拡大を続けていることを示している。

しかし、市場が成長していることと、自分たちが売れることは別問題である。多くの日本ブランドは、まさにここで最初の壁にぶつかると言える。

越境ECで日本ブランドがつまずく「現実」——データで見る、売れない本当の理由

結論から言うと、越境ECで売れない最大の原因は「物流」でも「言葉」でもなく、"国内で売れたものを、そのまま海外に出してしまう"ことである。 出品すれば自動的に売れる、といった考えをまずは改めるべきなのだ。

最初に知っておくべきは越境ECでつまずくのはごく普通のこと、という事実。海外販売に取り組む中小企業が最大の課題として挙げるのは「現地の情報・ノウハウ不足」であり、半数以上の事業者がここで引っかかる(日本公庫(JFC)調査・2022)。苦戦しているのはあなただけではないし、無謀だったわけでもない。問題は「順番」と「やり方」にあるのだ。

選品のズレ——「日本で売れたから海外でも」は通用しない

そしてこの「やり方」の核心にあるのが、選品のズレだ。JETROが米英Amazonに出店する日本企業(JAPAN STORE参加企業)を対象に行った調査では、「出品しただけでは売れず、在庫が積み上がる」「年間売上が伸びず、物流費がかさんで採算が合わない」といった現場の声が並ぶ。そして結論として、売上ランキングの上位に入る企業ほど商品ページの改善やSEO・プロモーションに力を入れており、プロモーションへの投資と売上の有無には明確な相関があると指摘している(JETRO、2025年)。国内のヒット商品をそのまま翻訳して並べるだけでは、現地消費者の文脈には刺さらない——つまり、「日本で売れているものは、海外でも売れる」という発想は通用しないのだ。

集客の壁——売上を分けるのは物流ではなく販促

次に、集客の壁である。「出品すれば売れる」という幻想はここで崩れる。同じくJETROの調査(米国Amazon・JAPAN STORE参加企業対象)によれば、予算を投じる項目に「広告予算」を挙げた企業の割合は、売上ランクが上がるほど高い——売上上位企業が82%、売上ありの企業が73%、売上なしの企業は56%。一方で「配送・物流」は、どのランクでも高水準を維持しており(売上上位82%/売上あり83%/売上なし78%)、売上の有無による差はほとんど見られない。つまり、売れる企業と売れない企業を分けているのは物流の有無ではなく、広告・プロモーションを構築しているかどうか、ということが分かる。

※この構図は米国Amazonへの出店というケースで確認されたものであり、集客の力点は市場や出店形態によって異なる。

決済の取りこぼし——購買意欲のある顧客が、最後の一歩で離脱する

そしてもう一つ、見落とされがちなのが決済である。海外の消費者は、日本とは違う支払い手段を使うことが多々ある。現地で主流の決済方法を用意していないと、買う気のあった顧客がカートの最後で離脱する——売れないのではなく、買える状態を用意できていない、商品力とは無関係の取りこぼしだ。

選品も、集客も、決済も——共通しているのは、「いきなり大きな市場で、全部を一度にやろうとするから失敗する」という構造。自社が今どの位置にいて、次に何をすべきかという「正しい順番」が必要であると言える。

越境ECの成長ステップ——5段階で「自社の現在地」を知る

越境ECは「直送か、現地展開か」の二択ではない。海外販売には自然な成長のステップがあり、自社が今どの段階にいるか、これを見極めることが、最初の一歩を誤らないコツだ。

実際、日本企業の多くは、この地図でいう「いちばん手前」の段階にいる。中小企業基盤整備機構(SMRJ)の「中小企業の海外展開に関する調査」(2024年)によると、回答した1,000社の中小企業のうち、海外展開を行っているのはわずか13.3%、そのうち越境ECを実施しているのは全体のたった4.5%にすぎない。大多数は「興味はあるが、まだ動いていない」段階に留まる。これから踏み出す側こそが多数派であり、決して遅れているわけではない。

第一段階:まず適性を知る(まだ何も決めていない)

「海外で売ってみたいが、何が向いているのか、どこから手をつけるか分からない」——ここが出発点だ。この段階でやるべきは、出店することよりも前に、自社の商品が海外の需要に合うのか、どの市場に可能性があるのかを見極めること。投資をする前に、判断材料を集める段階である。

第二段階:日本から直接配送(現地拠点なしで始める)

自社の越境ECサイトを立ち上げ、日本から海外の消費者へ直接商品を送る形。現地には法人も倉庫も持たず、オンラインのストアを立ち上げるのみで始められる最も身軽な入口だ。具体例として、美術用品・額装のART VIVANTは、アート作品を越境ECで海外へ販売している(ART VIVANT 成功事例)。トレーディングカードやコレクション品の直送などが典型的だ。Made in JapanのスポーツアイウェアブランドSWANSも、スポーツサングラスや競泳ゴーグルなどを自社のグローバル越境ECストア(SWANS Global)から台湾・香港・シンガポール・米国など世界各国へ直送している。軽量・高単価のアイウェアは価値密度が高く直送に向く好例であり、「Made in Japan」プレミアムも効く商材だ。

物流や海外決済を自社で扱う余裕がなくても、この段階には踏み出すことが可能だ。既存サイトにタグを1行足すだけで、海外決済・国際配送・多言語CSまでを外部に任せられる「越境プラグイン型」サービスを利用するといいだろう(WorldShopping BIZBuyee Connect など)。海外の顧客が商品を見てブランドを体験するのは自社ストア上であり、購入手続き(決済・輸出・国際配送)は代行サービス側が担うため、モールに依存せずに自社ブランドを保ちながら海外対応を積み重ねられる。ただし、集客(海外の人に自社を見つけてもらうこと)は別途必要であり、決済は代行サービスのカートを経由することは押さえておきたい点である。

第三段階:モール型マーケットプレイスで規模を作る

Amazonやモールなど、マーケットプレイス型のECに出店し、モール側が既に持つ顧客基盤を借りて販売量を一気に伸ばす段階だ。ゼロから集客する必要がなく、その市場のモールに既に集まっている買い手層に自社商品を届けられるのが強みである。ただし注意すべきは、自社サイトを捨ててモールに移行することではない、という点。モールで規模を伸ばしながら、自社の越境サイトも並行して持ち続けるのがもっとも賢明だ。モールは手数料や規約に縛られる場であり、顧客との関係を自分の資産として積み上げていくには自社サイトが必要になる。だからこそ、モールや代行サービスの流入で成約した後、その顧客をどう自社ストアへ導き、関係を自分側の資産として沈めていくかを、あらかじめ設計しておくべきだ。ここで得る集客はあくまで入口にすぎず、リピート購入とブランドとの関係は自社側に積み重ねてこそ本当に機能する。モールは自社サイトと並行する選択肢として捉えるのがよい。

第四段階:現地進出への足場をつくる

モールで手応えを掴んだら、いよいよ現地市場への本格進出に向けた準備段階に入る。この層はじわじわと増えつつある。JETRO「2025年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によると、海外拠点を持たない企業のうち「今後、新たに海外展開を図りたい」と回答した企業は45.3%にのぼり、2年連続で増加している。つまり、拠点ゼロの状態から現地進出を検討している事業者は、日本企業のおよそ半数を占めているといえる。

第五段階:海外の現地市場で「経営する」(ランディング)

進出した市場に根を張り現地で事業を運営する段階。ここで誤解しやすいのが、「現地化=大きな投資」という思い込みである。現地化は、必ずしも代理店契約を結んだり、実店舗に商品を並べたりすることを意味するわけではない。その市場で、まずは現地向けのオンラインストアを一つ開くという形でも、同じく小規模から始められる。 例えば、日本ブランドが台湾で現地向けオンラインストアを開設した事例として、アートアクアリウム展「台北金魚展」がある(Art Aquarium 成功事例)。

そして現在地を把握したら、次に進むべきが「では、具体的にどう始めるか」である。

越境ECの始め方——道筋の全体像

越境ECの始め方には、どの段階にいる企業にも共通する「基礎工程」がある。自社の現在地(前章)と商品適性(次章)を確認し、どこから踏み出すかを決める。

共通の基礎工程は、商品準備→市場選定→出店形態→決済・物流の手配→法規・認証対応→ローカライズ→集客。前章で見た「選品・集客・決済でのつまずき」が、この道のどの工程で発生するのかを、あらかじめ押さえておく必要がある。

決済と物流の手配——現地法人がなくても整えられる

この道筋の中で、特に誤解されやすいのが決済と物流の手配である。「海外の消費者向けに決済や配送を整えるには、現地に法人がないと無理なのでは」と思われがちだ。だが、この心配の多くは、日本からの直送そのものではなく、越境ECを「現地に拠点を構えるモデル」と混同しているところから来ている。だが実際、越境ECは決済代行サービスと物流委託を使えば、現地法人を持たずに導入できるのが標準的な形。 現地法人が必須になるのは、現地に拠点を構えて経営する「現地拠点モデル」で、国境を越えてオンラインで売る越境ECには当てはまらない。ここを混同して「だから無理」と諦めてしまうのは、もったいない。

法規・認証——管理画面の外側にある専門領域

ただし、法規・認証だけは、開店プラットフォームの設定だけでは完結しない——管理画面の外側にある専門領域だ。たとえば化粧品を米国に出すなら、化粧品現代化規制法(MoCRA)に基づくFDAへの施設登録・製品リスティングが別途必要になる(JETRO)。食品を米国に出す場合も、FDAの食品施設登録に加えて「米国代理人(U.S. Agent)」の指定や、輸入の都度の「事前通知(Prior Notice)」が要る。こうした認証や通関書類の対応は、必要に応じて外部のパートナーに頼るべきところで、国ごと・品目ごとの具体的な手続きは、それぞれの専門ガイドで深掘りする領域になる。

道筋が見えたところで、多くの人が抱く問いに戻ろう——「そもそも、うちの商品は海外で売れるのか?」

あなたの商品、今すぐ直送できる?——越境ECに向く商品・向かない商品

「自分の商品は海外で売れるか」は、勘ではなく、いくつかの決定因子で判定できる。カギとなるのは、価値密度・法規分類・需要の特異性という3つ。これに当てはめれば、今すぐ直送できるのか、モールで育てるべきなのか、あるいは現地化のルートを取るべきなのか、が見えてくる。

因子①:価値密度——軽くて単価が高いほど、直送が成り立つ

最も硬い判断軸は、価値密度だ。軽く、コンパクトで、単価が高い商品ほど、単価に対する運賃や関税の比率は低くなり、直送は経済的に成立しやすい。 逆に、重くて単価の低い商品は「運賃負け」(運賃が利益を上回る)のリスクが高く、直送には向かない。

この「価値密度」の重みは、近年さらに増している。米国は2025年、申告額800ドル以下の少額貨物を長年免税としてきた制度(de minimis)を縮小し、一件ごとに定額の従量税を課す方向へ転換した(JETRO世界貿易投資報告2025)。一件ごとに定額で課税されると、単価が低い商品ほど単価に対する負担比率が跳ね上がり、利益が消えてしまう。単価が高く価値密度が高い商品ほど、その負担を吸収できる。

因子②:法規分類——「規制品」かどうか=直送できるか

商品が規制対象かどうかも、直送できるかどうかを左右する。化粧品・食品・医療機器などは、販売国によって許可制や成分規制が異なる「規制品」だ。前章で触れた化粧品のMoCRAのように、各国ごとの事前の制度対応が必要であり、こうしたものは気軽に直送できる対象ではない。また、液体・電池・スプレー缶(航空危険物)や、賞味期限の短い食品も直送には向かない。規制品は「直送では無理でも、現地化して現地の許認可を取得すれば出せる」——つまり、商品の性質そのものが、取るべきルートを決める。

因子③:需要特異性——「日本品プレミアム」が効く商品

第三は、需要の特異性だ。「Made in Japan」が品質保証の象徴として機能する商品——日本ブランドの時計、化粧品、抹茶や菓子といった食品など——は、海外において日本製ならではのプレミアム需要を持つ。こうしたプレミアムが効く商品ほど価格弾力性が低く、越境直送の利幅を支えやすい。冒頭で触れた「注文の約9割がイスラエルからだった音波振動歯ブラシ」も、この需要の特異性の一例だ。

この3つの因子を当てはめると、取るべきルートが見えてくる。軽く、単価が高く、規制がなく、日本製プレミアムが効く商品(時計やトレーディングカードなど)は、今すぐ直送(第2段階)で始められる。条件を満たさない商品はモールで育て(第3段階)、化粧品や食品といった規制品は「現地化+現地の許認可取得」(第5段階)を現実的な道とする。前章の5段階は「自社の現在地」を測る尺であり、この3因子は「商品適性」を測る尺——両者は別々の、それぞれ独立した尺だ。どちらかを取ってどちらかを捨てるという関係ではなく、この2つを重ねて読むことで、自社が取るべき道筋が浮かび上がってくる。

ここまでの判定が終わったところで、最後の問いが残る——「では、どの市場で試すべきか?」

どの市場で試す?——いきなり大市場ではなく、台湾、香港、シンガポールから

最終的に狙うのが中国・米国・東南アジアの巨大市場だとしても、最初から試すのはおすすめしない。試錯コストの低い台湾・香港・シンガポールで、オンラインから"型"を作るのが賢い順番だ。

あなたが最終的に狙う大市場——中国・米国・東南アジア

日本ブランドが目的地として見据える市場はたしかに巨大である。2024年の中国のEC小売市場規模は3兆361億ドルで世界シェア50.5%の世界1位、米国は1兆1,923億ドルで世界2位(JETRO世界貿易投資報告2025、原データeMarketer)。この2か国だけで世界のEC小売市場のおよそ7割を占める。東南アジアも勢いがあり、6か国のEC市場のGMVは2024年に1,590億ドル、前年比15%増と成長が著しい(JETRO、原データはe-Conomy SEA 2024)。そもそも世界全体のEC小売市場規模は2024年で6兆74億ドル(前年比+7.7%)、2028年には7兆8,860億ドルへ拡大すると予測されている(同報告)。狙う先の市場そのものが、巨大かつ伸び続けている。

だが、巨大であることと最初から勝てることは違う。これらの市場は競争も激しく、ローカライズや広告の投資も重い。選品・決済・集客のすべてを手探りで合わせにいくのは、リスクが大きすぎるだろう。

まずは台湾、香港、シンガポールから——その理由

そこで勧めたいのが、台湾・香港・シンガポール。まず小規模から型を作るという順番だ。理由は3つある。

第一に、試錯コストの低さ。台湾は人口約2,340万人(2024年末・内政部)と、いきなり大市場に挑む前に「売り方の型」を作るには手頃な規模と言える。反応を測りやすく、検証の場として向いている。

第二に、消費力。台湾は2024年、一人当たりGDPで日本を上回り(IMF)、購買力でも日本と同等以上の水準にある。香港・シンガポールも同様に高所得で、シンガポールの一人当たりGDPは2024年に9万674ドル、香港は5万4,030ドル(いずれもJETRO)と、日本を大きく上回る。「日本と同等の価格帯の商品が、無理なく受け入れられる市場」なのだ。実際の需要も裏付けがある——香港の消費者が越境ECで買う相手先として日本はシェア16%で、中国本土・米国に次ぐ3位につけている(JETRO香港ECレポート、2025年)。消費力があり、かつ日本品を実際に買っている市場であることが明確。

第三に、日本への親近感。台湾では「最も好きな国・地域は日本」と答えた人が76%にのぼり、過去最高を更新している(日本台湾交流協会、2024年度調査)。日本ブランドにとって、これほど追い風の効く市場は多くない。親日度の高さは、各地の調査で首位が一様ではないため「世界一」とは言い切れないが、日本への親近感が際立って高い市場であることは確かだ。

成長ステップの第五段階で「日本ブランドが台湾で現地向けオンライン店を開いた事例」に触れたのも、この文脈につながっている——現地化の最初の一歩として台湾が選ばれやすいのは、ここまで見た三つの理由と無関係ではない。主役は台湾、香港とシンガポールは付帯と捉えるとよい。台湾で作った型は、次に狙う中華圏や東南アジアへ展開する際の足がかりになり得る、という見方もできる。

越境ECのメリット・デメリット——やる価値はあるのか

越境ECの価値は「売上の天井が上がること」、難しさは「現地に合わせる手間」に集約される。いずれもこれまで見てきた話の裏表だ。

比較軸メリットデメリット(対応策)市場の大きさ国内の人口減を越え、世界の買い手にアクセスできる市場ごとに事情が異なり、一律には攻められない(→段階を踏む)初期投資オンラインなら現地法人なしで小さく始められる軌道に乗せるには販促投資が要る(→広告・SEOを組む)商品の強み「Made in Japan」プレミアムが効き、高単価でも売れる国内ヒット品がそのまま売れるとは限らない(→現地に合わせた選品)運営決済代行・物流委託で運営負荷を抑えられる現地決済・ローカライズ・法規対応が必要(→外部の専門と組む)

デメリットの多くは、順番と準備で解ける。天井の高さは構造的に大きく、難しさは段取りで吸収できる。

越境ECプラットフォームの選び方——何で始めるか

「何を使って始めるか」を選ぶ際に照らし合わせるべき軸は、次の2点に集約される。1つは多市場・多言語・多通貨に対応できるか。2つめは、現地の決済や集客のエコシステムが十分に強いか。どのプラットフォームを選ぶにしても、この2軸で比較すれば、「つまずきやすい箇所」を先手で塞げるかどうかを判断できる。 判断そのものはこの軸に沿って自分で下せばよく、以下では各軸の意味を具体例で説明する。

第一の軸は、一つの店舗で複数の市場・言語・通貨を扱えるかどうかだ。海外展開では、市場ごとに言語や通貨が変わる。一例として、SHOPLINEは一つの店舗で複数の市場を運営でき、各市場が複数言語に対応する設計になっている——一つの店舗で米国・英国・日本の市場を持ち、米国市場では英語とスペイン語を同時に提供する、といった形だ。自動翻訳、多通貨換算、店舗上での言語・通貨選択の表示にも対応しており、こうした「一店舗で複数市場」をどこまで備えられるかは、プラットフォームによって差がある。前の章までで見た「ローカライズの壁」を、ツールの段階で吸収できるかどうかが、ここで効いてくる。

第二の軸は、現地の決済・集客のエコシステムが十分かどうかだ。前章で触れた通り、海外の消費者が使う決済手段は日本とは異なる。例えば、SHOPLINEでは、Alipay・WeChat Pay・GrabPayといったアジア圏の現地決済への対応、さらにShopee・Lazadaなど現地マーケットプレイスとの連携が可能だ。どのプラットフォームを検討する場合も、アジア圏の現地決済や現地モール連携にどこまで対応できるかは、「隠れた離脱」を防ぐうえで重要な選定ポイントになる。

各プラットフォームの細かな機能比較や料率プランは、各社を個別に照らし合わせて検討すべき領域だろう。

まとめ——最初の一歩は、思っているよりずっと小さい

ここまで読めば、「海外で売る」の輪郭はすでに見えてきたのではないだろうか。世界の市場は日々成長しており、日本製品への需要は確かに存在する。つまずくとしたら、決まって「国内で売れているものを、そのまま海外に持っていく」という点——だからこそ、順序が必要になる。自社が5つの段階のどこにいるか(現在地)をしっかり見極め、自社商品が直送に向いているか(価値密度・法規分類・需要の特異性)を判定し、いきなり大きな市場を狙わず、試行のコストが低い市場で先に「型」を作り、その型に合うツールを選ぶ。この順序を守ることで、失敗の確率は確実に下がる。

そして、このプロセス全体を貫く事実は一つしかない。海外で売ることは、大きな投資ではないということだ。 現地法人、倉庫、まとまった資金——それらは最初から必ず必要なものではない。必要なのは、正しい順序に沿って、今日、低リスクの一歩を踏み出すことだ。まずは自社の現在地を確認し、台湾・香港・シンガポールといった試しやすい市場で小さく始める——あなたのブランドが世界へ向かう一歩は、そこから始まる。

よくある質問(FAQ)

越境ECの代表例は?

日本から海外の消費者へ直接届ける自社越境ECサイト、Amazonなどのマーケットプレイスやモールへの出店、そして現地市場に根を下ろして現地向けオンライン店を運営する形——これらが代表的なパターンと言える。

越境ECのデメリットは?

海外現地に各方面を合わせていく手間がかかる点。現地で主流の決済手段の導入、言語・表記のローカライズ、国ごとに異なる法規・認証への対応などが必要になる。ただし、これらの多くは「正しい順番」と外部パートナーとの連携で吸収できるもので、決済代行や物流委託を使えば現地法人なしで運営が可能である。

越境ECの注意点は?

最大の注意点は「国内で売れた商品をそのまま出せば売れる」という思い込みである。現地の需要に合った選品、現地決済の用意、広告・SEOといった販促を組まなければ、出品しても在庫が残るのは当然だ。いきなり大きな市場で全部をやろうとせず、試錯コストの低い市場で型を作ってから広げるのが安全だろう。

越境ECと貿易(輸出)の違いは?

従来の貿易は現地の商社や卸を介してB2Bで商品を流すのが基本。一方、越境ECはオンラインのストアを通じて海外の消費者へ直接(B2C)売る。間に何層もの中間業者を挟まず、自社のブランドと顧客の関係を直接築けるのが、越境ECの最大の特徴である。

個人や副業でも越境ECはできる?

もちろん可能だ。越境ECは現地法人や大規模な初期投資を前提としないため、規模の小さい事業者や個人でも、自社の越境ECサイトを立ち上げる形で始められる。軽くて単価が高い商品(コレクション品など)は、個人規模でも直送と相性がいいだろう。

越境ECはいくらかかる?

コスト、費用は出し方によって幅がある。自社サイトを立ち上げて直送する形なら、現地法人を持たずに小さく始められるが、当然国際送料(1件あたり1,000〜2,000円程度)や、軌道に乗せるための広告・販促費は見込んでおきたい。モールに出す場合は、出品先ごとに販売手数料がかかる(料率は出店先による)。

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