越境ECの始め方|七つのポイントと「誰に売るか」を考える

越境ECの始め方|七つのポイントと「誰に売るか」を考える

越境ECの始め方を七つのポイントに整理。最初に決めるのは国ではなく「誰に売るか」。小さく一度出し、分かったことで他のポイントを書き換える進め方を解説します。

「越境ECをやる」と決めたとき、まず最初に手をつけるべきことは何だろうか。

越境ECで最初に決めるのは、「どの国で売るか」でも「どのサイトを使うか」でもない。最初に検証する客層——つまり「誰に売るか」だ。誰に売るかが決まれば、市場も、出店形態も、決済も、集客も、選択肢が一気に絞り込める。一方、そこが決まらないままだとどの項目も「一般論としてはどれもアリ」の状態から抜け出せず、いつまでも決まらない。

本記事では、越境ECで扱うことになる論点を、市場・出店形態・商品・決済と物流・法規と認証・ローカライズ・集客という七つの決めごとに整理している。この七つは互いに影響し合っていて、順番にこなせば終わるという構造にはなっていない。よって、準備をすべて整えてから始めるのではなく、まず小さく出してみる。そこで分かったことをもとに、他の項目を見直し、軌道修正していく――本記事が勧めるのは、この進め方だ。

最初に決めるのは「どの国か」ではなく「誰に売るか」

ジェトロが2025年11月に公開した「越境ECの課題と克服ポイント(日本)」では、事前調査・販売戦略検討の最初のステップとして「販売先国の決定」が挙げられている。

ただ、本記事で勧めたいのは、その一段手前にある「誰に売るか」を先に決めることだ。販売先の「国」から考え始めると、「その国の中で、いったい誰が買ってくれるのか」という肝心の問いが、決まらないまま残ってしまうからだ。

ベビー服ブランドが進めた順番

福岡のベビー服ブランド「Haruulala organic」を展開するSunday Morning Factory(従業員6人)は、国ではなく顧客から決めている。中小企業基盤整備機構の事例集によると、同社の出発点は「買ってくれるのは『出産祝いギフト』を贈る人だ」という仮説だった。

一方で、国選びにはさほど力を入れていない。 同じ事例集によると、台湾を選んだ理由は「マーケットとしてもほどよい規模で、ファーストステップとしてよい市場であると考えたため」だった。

しかし出店形態は顧客像の仮説で決めた。 選んだのはShopee台湾の公式ショップで、決め手は現地調査。「『出産祝い』の購入先について現地調査を行った結果、『Shopeeで検索する』という声が最も多かった」からだ。

手元にある情報から「買ってくれそうな客層」を見つける

では、その仮説はどこから立てればいいのか。手がかりは、たいてい手元にある。ただし、手がかりの種類によって、何が読み取れて何が読み取れないかが違う。

いちばん手軽なのはアクセス解析だ。Googleアナリティクス(GA4)は、訪問者の「国」「地域」「都市」「言語」を標準で記録している。ここから読み取れるのは「どの国から何人来ているか」までで、国の名前が分かっても、それだけでは「誰に売るか」の答えにはまだならない。

SNSの管理画面から読み取れるのも、同じく「どの国からのアクセスが多いか」という段階までだ。Instagramのプロアカウントであれば、インサイトの「オーディエンス」でフォロワーの居住国を確認できる。

解像度が一段上がるのは、実店舗で免税販売をしている場合だ。免税店が販売のたびに国税庁へ送信している「購入記録情報」には、旅券の国籍と品名・数量・価額が含まれている。国税庁のQ&Aによれば、送信したデータは自社側で7年間保存することになっており、つまりそのデータは、自社の免税販売システムやPOSにいまも残っている。ここから読み取れるのは、「どの国の人が」「自分の店の何を」「いくらで買っていったか」という三つの情報だ。国名に加えて、「うちの何が買われているか」まで分かる。

WorldShopping BIZやBuyeeのような代行・転送サービスを経由した注文からは、読み取れる情報が少し違ってくる。この種のサービスでは、注文がサービス会社を経由して届くため、受注データにはサービス会社の同じ国内住所が繰り返し現れることになり、購入者が実際にどの国にいるのかは店側からは見えない。読み取れるのは「海外に、これを欲しい人がいる」というところまでだ。ただし、何が選ばれたのかは自社の受注データに残っている。

他にも、手がかりになるものはある。既存の取引先や知人のつながり、社内のメンバーが話せる言語、国内で積み上げてきた販売実績——こうした手持ちの資産も、「誰に売れそうか」を考える材料になる。

仮説は、一文でいい

手がかりは全部そろえる必要はない。手元でいちばん解像度の高いものを一つ読めば、仮説は書ける。

書く形は、Haruulala organicの一文がそのまま見本になる。「おしゃれ感度が高く、新しいものが好きな20〜30代のママに、出産祝いを贈る人」。この一文に入っているのは、誰が、何のために、そして自分の商品に置き換えるならうちの何を買うのか、という三つの要素で、対象の国は指定されていない。

どこまで細かく書けばいいのか。目安は、その一文から「次に調べる問い」が一つ出てくるかどうかだ。Haruulalaの一文からは「その人たちは出産祝いをどこで買っているのか」という問いが出てくる。だから現地調査に行くことができ、返ってきた答えが出店形態を決めた。一方、「海外の20〜40代女性」という書き方では、次に何を調べればいいかが決まらない。仮説の粗さ・細かさは、ここで線引きできる。

仮説が当たっているかどうかは、このあと実際に売って確かめればいい。書いた時点では外れていてもかまわない。

最初の市場は、仮説を最も安く確かめられるところ

仮説を一文で書けたら、次はそれをどこで確かめるかを決める。市場の大きさも、よく名前が挙がる国かどうかも、「あなたの商品を誰が買うか」については何も教えてくれない。最初の市場に求めるべき条件は、立てた仮説をできるだけ安く確かめられることだ。

「安く」の目安になるのが、送料である。日本郵便のEMSでは、500gまでの荷物を台湾(第1地帯)に送る料金が1,450円なのに対し、米国(第4地帯)は3,900円(2026年8月時点)。同じ一箱を送るだけでも、一度試すためのコストは倍以上違う。近い市場ほど、一度試すための単価は下がる。最初の一回をどこで試すかは、この差を基準に決めてもいい。

もちろん、企業として将来的にどの国を目指すかは、別に考えてよい。ジェトロの調査では、今後、海外で事業拡大を図る国・地域の首位は4年連続で米国(40.7%)だった。しかし、多くの企業が目指す市場と、あなたが最初に仮説を確かめる市場は、同じである必要はない。

安い市場から試すのは、そこが有望だからではない。仮説が外れたときに、次の市場を試す余力を残しておくためだ。

七つのポイントは、順番どおりの手順ではない

それぞれのポイントの全体像は、別の記事越境ECとは?日本企業の始め方・完全ガイドで確認してほしい。

ここで示すのは出品前に確認しておく注意事項の一覧ではなく、一つのポイントを動かすと、別のポイントの答えが変わる——七つがつながっている、ということだ。

売ってから、商品そのものが変わることがある。 静岡県掛川市の中根製茶は2021年より米国Amazonの「JAPAN STORE」に出品している。認証も輸入者の手配も出品前に済ませていた。しかし、レビューに「紐がついていた方がいい」「もっと味が濃い方がいい」という声が届き、その後開発したティーバッグに紐付き・味は濃いめ、に改良された。事前にどれだけ調査しても出てこない情報が、実際に販売してはじめて手に入ることがある。

販売方法が扱える商品を決めてしまうこともある。 国内の店頭で売れているものが、通信販売という形に変えた瞬間に売れなくなる。ジェトロによると、台湾では酒・たばこは非対面の通販では年齢確認ができないため、基本的に販売できない。商品の決めごとは、販売チャネルの決めごとによって選択肢が限られることがある。

売り先と販売方法の組み合わせが、税金を納める主体を入れ替えることもある。 ジェトロの資料では、英国向けの場合、課税価格135ポンド以下の商品をオンラインマーケットプレイス経由で販売するならVATの申告・納税義務はマーケットプレイス側にあり、自社サイトで直接販売するなら自社にある、と整理されている。同じ商品でも、どこで売るかを変えただけで、納税する側が入れ替わるのだ。

動かせる決めごとが七つあり、どれか一つを動かすと、他の決めごとの答えが変わる。順番にこなして終わりにできないのは、そのためだ。

進め方——スモールスタート、都度改善

「全部揃えて出す」ができない理由

理由は単純、準備が終わらないからだ。ジェトロが2024年7月に実施した米英Amazonの出品支援プログラム参加企業への調査では、アンケート時点でまだ出品できていない企業が米国で約3割、英国で約7割あり、その理由は米英いずれも約半数(各49%)が「商品準備に時間がかかっているため」だった。ラベルの海外対応も、現地向けの商品選定も、写真や説明文の準備も、「これで完了」と言える線が引きにくいのだ。

まず一度出してみる——最初はどこまで小さくできるか

一方、始めるための固定費は小さくできる。出店の固定費は月額ゼロから始められる——無料で始められるASPカートなら、初期費用・月額とも0円のプランがある(2026年8月時点)。

実際に出ていくのは、固定費よりも売れた一箱ごとにかかる実費のほうだ。金額の目安を挙げると、国際送料は先に見たEMSの500gの荷物で1,450円(第1地帯)から3,900円(第4地帯)。関税を売り手側が負担する形——貿易条件でいえばDDP(インコタームズ2020の「関税込持込渡し」)——にすると、ここに1件あたりの固定費が乗る。ヤマト運輸の国際宅急便でこの考え方にあたる支払方法は「関税等諸費用の後日精算」で、日本国内でヤマトと法人契約(掛売り契約)を結んでいる場合に利用でき、関税等諸費用の発生の有無にかかわらず伝票1件ごとに3,190円(税込)がかかる。ここに商品の仕入れ原価と、返品が起きたときの返送料が加わる。単価の低い商品ほど、商品単価に対するこうした実費の比重が大きくなる。

合計するといくらになるのか。関税を買い手が払う前提なら、かかるのは出店費用0円と国際送料だけ——近い市場向けのEMSなら500gまで1,450円なので、最初の一箱は送料の負担だけで発送できる。関税を店側で負担する形にするなら、ここに先に見たヤマトの1件あたり3,190円(日本国内で法人契約がある場合の額)が加わる。品目を絞って数箱ぶんを試すなら、仕入れを含めても動く金額は数万円台に収まる。「この出費を払えるかどうか」を自分で判断できる桁だ。

最初は、品目を絞り、市場を一つ、出店形態を一つに限って小さく試す。そのうえで、「この金額までなら、売れなくても勉強になったと割り切れる」という上限を自分で決めておくとよい。

先に決めておくべきこと/あとで変えられること

「あとで直せないものがあるのではないか」という不安には一つの判断基準がある。あとで自分の一存では戻せなくなるかどうか、である。役所に登録される情報(商標など)、プラットフォームの登録情報、一度公開した価格——こうした情報は一度外に出ると自分の判断だけでは変更ができない。この基準で見たとき、先に決めておきたいのは次の三つになる。

まず、ブランド名と商標。

多くの国では、商標は使ってきた実績ではなく、申請の順で決まる。日本で長く使ってきたブランド名でも、進出先で第三者に先に申請・権利化されると、その国ではその名前で販売できなくなる。特許庁はこれを「抜け駆け商標問題」と呼び、日本の商標が海外で無断で出願・登録される問題が多発していると注意を促している。取り戻す方法はあるが、同庁が「想像以上の手間、費用、時間がかかる上、結果として権利を抹消できる保証はありません」と書くほどの道のりである。ただし申請のタイミングは、その市場で続けると決めた時点が正しい。初回販売のため、全世界で商標を押さえておく必要はない。

次に、顧客データが誰のものになるか。

出店形態によって買ってくれた人の情報が手元に残るかどうかが構造的に変わる。最初の一回から自分で持つ必要はない。ただし、モールなど他社の販売チャネルで顧客を積み上げたあとで自社に移そうとしても、それまでに買ってくれた相手はついてこない。戻せなくなるのはこの部分である。

最後に、価格の設定である。

手数料・関税・返品時の返送料を、値づけの時点で原価に織り込んでおく。具体的に何を織り込むかは、後半の「値づけに何を織り込むか」で解説しよう。

一度公開した価格を変えるには、そのたびに顧客への説明が要る。特に値上げは、値下げよりも説明が難しい。

一方であとから変えやすいものもある。進出する国の優先順位(商標登録や現地法人設立をまだ行っていない段階の場合)、販売する商品、価格の見せ方(セット構成や送料込みかどうかといった打ち出し方)、集客チャネル、商品説明や広告のコピー。そして、いま思いつかない問題は、実際に出してみて、出てきた時点で対処していけばいい。

同じ商品でも、市場が変われば位置づけが変わる

ここからは、七つのポイントを一つずつ見ていこう。

まずは市場。

海外に出たとき、母国での売り方がそのまま再現されるとは限らない。ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が海外で広げているのは「DON DON DONKI」——店内のほぼすべてを日本製・日本市場向けの商品でそろえた「ジャパンブランド・スペシャリティストア」で、同社は公式サイトでこれを東南アジア仕様の新業態と説明している。ハワイの「ドン・キホーテUSA」とは別ブランドとして併記され、出店国・地域に合わせてローカライズしながら、アジアの6つの国・地域に展開している。国内の看板をそのまま持ち出すのではなく、その市場向けに設計し直した業態を置く、という形だ。

商品は同じでも、受け取られ方が変わる

同じことは業態より一段細かい商品構成のレベルでも起きる。置かれる棚が変われば、同じ商品が別のものに見える。Haruulala organicが台湾で最初に投入したのは、日本での売れ筋である「出産祝い2点セット(スタイ+ロングパンツ)」だった。ところが現地では「トップスのない不完全なベビー服セット」と受け取られ売れなかったのである。現地の出産祝いにはより実用的な品が選ばれるのが一般的だと分かり、2020年9月に主力を「スリーパーセット」へ変更。10月には漢字の名入れ刺繍にも対応した(最終的に購入者の90%が利用)。結果同年11月、目標だった黒字化に到達している。

市場ごとに評価される軸が入れ替わる

好感度の高さだけでは評価はわからない。ジェトロの日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)が2026年1〜2月に7市場で実施した調査では、日本の料理や食品への好意度はどの市場でも9割を超えていた。しかし、重視されるポイント——評価軸——は揃っていない。たとえばカナダをみると、最も高いイメージ項目が「新鮮」ではなく「ヘルシー」だった。好感度は高くても、評価されている軸は市場ごとに異なる。前面に出すメッセージはそこで変わってくる。

どう出すか——四つの出店形態と、顧客との接点は誰に残るか

先に決めておきたい三つのうち、「顧客データが誰のものになるか」は、販売方法の構造が決めてしまう。ここでは四つの出店形態を、顧客との接点がどこに残るかという観点で見ていく。

① 代行・転送サービスを使う

自社サイトにバナーを一つ設置するだけで、海外からの注文を受けられるサービスがある(WorldShopping BIZ、転送コムなど)。一見すると同じようなサービスに見えるが、「買ってくれた人が誰なのか」という情報が自社に残るかどうかで、大きく二つの型に分かれる。

一つ目は、購入代行型だ。代行会社が海外の買い手に代わって注文するため、受注データには代行会社のアカウント名義が入る。WorldShopping BIZの公式FAQにも、店側に表示されるのは「当社購入代行用アカウントでの購入分」で、注文者名は同社、発送先は同社の国内物流拠点になると明記されている。その代わり、店側に提供されるのは、購入日・国名・リピートID・商品情報など、個人情報にあたらない範囲のデータだ。

もう一つは、転送型だ。海外の購入者が自分で自社サイトにアクセスして注文し、決済も自分で完了する。届け先が国内の転送用住所になるだけなので、注文者の情報は自社の受注データに残る。ただし、購入者が実際にどの国に住んでいるのかまでは、店側からは分からない。つまり、同じ『海外販売を代行してくれるサービス』でも、顧客データをどこまで自社で持てるかが大きく異なる。

② 海外モールに出店

モールは集客の入口を用意してくれる。そのかわり顧客情報はモール側で管理され、購入者との接点もモール側に残りやすい——それは規約通りである。

Amazonの適正利用規約は、購入者の個人識別情報を「出品者出荷または税務上および規制上の要件などの法的要件を満たすため以外の目的で使用してはいけません」と定めている。取得したデータでAmazonの購入者を自社の商品マーケティングの対象にすることも禁じられており、データ保護ポリシーでは、個人識別情報を保持できる期間は「注文の配送後30日以内」に限られる。

集客を担ってもらう対価は、手数料と、この顧客接点だ。ジェトロがまとめた海外Amazon販売のハンドブックによれば、Amazonの販売手数料は販売額の5〜45%で、料率はカテゴリーごとに異なる(2026年3月時点)。

③ 自社で越境ECサイトを持つ

自社サイトはモールの逆側に振れる。中小企業基盤整備機構のビジネスQ&Aは、独自ドメインでの出店について、メリットに「顧客情報を自社で持てること」、デメリットに「サイト流入を増やす対策が自分で必要になること」を挙げている。次の案内を送る宛先が手元に残るかわりに、訪問者は自分で連れてくることになる。

手元に残るのは、送り先の情報だけではない。返金の相談や個別の問い合わせといった、買ったあとの顧客との接点も、他社を経由せず自社側に置かれることになる。

④ 現地法人をつくる—店を構えるとは限らない

拠点を持つというのはその国での事業者としての立場を持つことだ。では現地法人があると何が変わるのか。現地の会社でなければ登録できない販売チャネルや、現地通貨での取引が、そこではじめて選択肢に入る。かわりに、その国の会社としての届出・申告・維持の義務を負い続けることになる。

ジェトロは台湾について、電子商取引に従事する現地法人・支店の設立そのものには「特段の規制はありません」と書いている(医薬品・化粧品など、品目ごとに許可・手続きが必要なものはある)。一方で、主要な通販サイトは現地通貨での現地内決済のみに対応しているため、現地法人の登記がなければ出店できない、とも注記している。会社を設立できるかどうかと、設立してはじめて開ける販売チャネルがあるかどうかは、別々の話として並んでいるのだ。

ただし、経済産業省の「令和6年度電子商取引に関する市場調査」がこの形態を位置づけているのは、「既に相手国において自社商品が浸透し、かつECサイトの運営を自社でコントロールできる体制を整えていれば取り組みやすい」という条件つきであり、小さく試す手段として勧められているわけではない。

進出の形を決めることと、店の形を決めることは、別の決定である。 会社をつくったうえで、まずはECだけで販売してみるという順番は、制度の側からはふつうに取れる。手続きの細目と、現地で実際に運営するときの中身は、別の記事台湾ECのローカライズにまとめている。

選ぶ基準は「今、何を検証したいのか」/併用という現実解

この四つの出店形態に、唯一の正解はない。選ぶ基準は、いま、いちばん確かめたいことは何かだ。海外に欲しい人がいるのかどうかを確かめたいなら①、顧客がすでに集まっている場所に置いたときの反応を見たいなら②、買ってくれた人ともう一度つながれる状態をつくりたいなら③、その市場で継続的に販売する土台が必要なら④が向いている。

併用もできる。検証のための最初の一回なら、①や②でかまわない。③へ移すタイミングは、その市場で続けると決めた時点だ。なお、③を選ぶ場合の道具としては、越境販売に対応したカートサービスがあり、SHOPLINEもその一つだ。

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何を売るか——できるか、儲かるか、いくらで出すか

「できるか」の見極め=三つの観点

自社の商品を海外へ直送で販売できるかどうかは、次の三つの観点で見極められる。

重量あたりの単価。 一箱あたりの運賃と関税を、その商品の単価が吸収できるか。

規制区分。 相手国の税関を、個人向けの荷物として通れる品目かどうか。

日本製であることの強み。 「日本製」であること自体が、買う理由になるか。経済産業省の伝統的工芸品に関する資料では、日本の伝統的工芸品を「購入を検討したことがある」割合は欧米87.4%・東アジア83.7%に対し、日本国内は53.7%だった。国内より海外のほうが手が伸びている品目がある。

見極めの具体的な手順は、別の記事海外販売の適性チェック|あなたの商品は直送で売れる?で説明している。

「儲かるか」の見極め=商品選定

ジェトロが米国Amazonの「JAPAN STORE」参加企業を対象に行った調査(2024年7月実施)には、はっきりした逆転が見られる。出品する商品を「日本国内で売れている商品」から選んだと答えた割合は、売上上位企業で27%、売上が立っていない企業で47%だった。これに対して、「米国現地消費者のニーズがあると思われる商品」を基準にした割合は、売上上位企業で82%、売上なしの企業で68%。ジェトロも、この二つの数字が「逆転している」と指摘している。

ここで効いてくるのが、最初に立てた顧客像の仮説だ。誰が買うのかを具体的に描けていれば、「現地のニーズがある商品」を「その人が欲しがるもの」として選べる。顧客像が決まらないままだと、手元にある国内の売上ランキングを頼りに商品を選ぶことになる。

国内で縮小している需要が、海外では伸びていることもある。日本酒は、国内の販売数量が10年間にわたって縮小する一方、輸出金額は2015年の140億円から2025年には459億円へと3倍を超えた。財務省の貿易統計に基づく、ECに限らない輸出全体の金額ではあるが、国内の需要と海外の需要は必ずしも同じ動きをするわけではないことを示している。

値づけに何を織り込むか——後の選択肢を狭めない

自社サイトで直接売ることだけを前提に組んだ価格には、他の販路の取り分が入っていない。見落としやすいのは、モールの手数料が何パーセントでかかるか、その母数だ。eBayの説明では、手数料の母数となる売上総額には、商品価格だけでなく、取扱手数料、バイヤーから徴収した送料、消費税なども含まれる。つまり販路によっては、送料を別建てにしても手数料の対象から外れない。販路が一つ増えるたびに、誰かの取り分を価格に織り込む必要がある。

関税も同じである。少額の輸入貨物に免税ラインを設けている市場は多い。ただしジェトロの資料によると、同じ差出人から同じ受取人あてに短期間のうちに繰り返し送られた荷物には、その免税を適用しない、という運用がある。値づけの前に確認しておきたいのは、免税ラインの金額そのものよりも、この適用条件のほうだ。免税ラインぎりぎりの価格設計は、リピーターに対しては機能しない。

決済と物流、法規と認証——出しながら確定していく

決済:どの決済を用意するかは、顧客の所在地で決まる

顧客が使う支払い手段は、市場ごとに違う。だから確認すべきは「どの決済が便利か」ではなく、候補の市場で実際に使われている支払い手段は何かのほうだ。クレジットカードなのか、口座振替なのか、その市場に固有の電子決済やコンビニ払いなのか——調べる対象そのものは、出品前に分かる。ただし、そのうちどれを実際に用意できるかは、出店形態が決まってはじめて確定する。

また、調べた結果によって、先に決めたはずの出店形態を見直す場合もある。顧客の支払い方法に合わせようとしたが、その手段を扱えるのは特定の出店形態だけだった——先に見たとおり、現地法人の登記がなければ入れない販売チャネルもある。決済は出店形態のあとに決める項目に見えて、出店形態のほうを問い直させる項目でもある。

物流:見落としやすいのは返品時の返送料

行きの送料は、調べればすぐに分かる。確認しておきたいのは返送、つまり返品が起きたとき、その荷物を日本へ戻す費用が誰にいくらかかるかのほうだ。日本郵便は国際小包について、返送料金は海外の郵便事業体から請求される額になり、「日本から差し出す際にかかる料金より高くなることもあります」と案内している(EMSの場合は返送料金がかからない)。配送手段ごとに、この条件が違う。

関税を誰が払うかも、決めた時点でコストの構造が変わる。DDPの形にすれば買い手側のハードルは下がるが、先に見た伝票1件あたりの固定費は店側が負担することになる。商品の単価と数量でそれを吸収できるかどうかが、分かれ目になる。

法規・認証:どの手続きが要るかは、いちばん最後に決まる

どの手続きが必要になるかは、誰に売るか・どこに店を置くかの答えが入って、はじめて確定する。ただ、それらがまだ決まっていない時点でも、確認できることが二つある。

一つは、扱う品目そのものが、個別の許可・手続きを要するカテゴリーに入るかどうか。もう一つは、販売ページに何をどう表示することになっているかだ。価格や表示の書き方そのものが市場ごとに法律で決まっており、同じ繁体字圏の台湾と香港でも、消費税があるかないかで価格表示の作り方が別物になる。

ローカライズと集客——出品後に見えてくる2点

どこまで翻訳するか、どの語彙を使うか、どんな写真を並べるか——ローカライズの範囲は、客層が決まればおのずと決まってくる。これらは決めた客層に合わせて動かせる部分である。

そして出品を終えた時点はゴールではなく通過点だ。海外向け販売でECを利用している日本企業719社を対象にしたジェトロの調査では、課題として「自社ブランド認知度向上の難しさ」を挙げた企業が46.0%あった。出品しただけでは、見つけてもらえない。

さらに、国内で効いていた集客手段が、海外でそのまま効くとも限らない。集客チャネルの構成は市場ごとに検証していく必要があるだろう。

まとめ:あなたの最初の一歩

最初の一歩は、買ってくれそうな客層について仮説を一文書き出すこと。手元でいちばん解像度の高い手がかりを一つ選び、誰が・何のために・何を買うのかを一文にする。国名は入れなくていい。そして、その一文から出てくる問いを一つ添える——「この人たちは、それをどこで買っているのか」。

ここまでできれば、始め方としては十分に前へ進んでいるだろう。あとは、その問いを確かめるために一度小さく出してみよう。その結果が、他のポイントの答えを書き換えてくれる。逆にいうとすれば、今すぐ決めなくていいことのほうがはるかに多いのだ。

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よくある質問(FAQ)

越境ECを始めるのに最低限必要なものは?

四つある。販売の場(自社サイト型・モール型・代行や転送サービスを利用する形のいずれか一つ)、決済手段、海外への発送手段、そして通信販売の広告に記載する表示(事業者名・連絡先など)。この四つがそろえば、注文を受けて発送できる状態になる。

越境ECは個人・小規模でも始められる?

始められる。法人の設立登記は必要ない。ただし消費者庁の解説によると、特定商取引法にもとづく表記では、個人事業者は「氏名又は登記された商号」を表示する必要があり、通称や屋号、サイト名だけでは足りない。費用の面では、購入代行を利用する形や、カート・モールの無料プランを使えば、固定費はほとんどかからない。

海外に売るとき、最初に決めるべきことは何?

最初に検証する客層を決めること。ジェトロの手順では最初に「販売先国の決定」が置かれているが、本記事ではその一段手前にある「誰に売るか」を決めることを勧めている。客層が決まらないまま国だけ決めると、出店形態も商品選定も決め手を欠いたまま残るからだ。逆に客層が決まっていれば、国は「その仮説をいちばん安く確かめられる場所」として選べる。

現地法人を作らないと海外では売れない?

そんなことはない。台湾を例にとると、現地に拠点を持たないまま国外から発送して販売する形は、制度上ふつうに取れる。ただし、現地通貨での現地内決済のみに対応する主要な通販サイトのように、現地法人の登記がなければ出店できない販売チャネルはある。拠点が要るかどうかは、どの販売チャネルに店を置きたいかで決まる。

越境ECを始めたけれど売れないのはなぜ?

まず「商品選定」と「集客」を確認、検証しよう。日本国内での売れ筋商品をそのまま出していないだろうか。また集客は、出品を終えた時点からその先の勝負になる。どちらの場合も直し方は同じで、「売れなかった」という結果の原因を見直し、上書きしていくことである。

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